実務家とアカデミアの距離:マクファーレン米NRC委員長の退任の報に触れて

米国・原子力規制委員会(NRC, Nuclear Regulatory Commission)のアリソン・マクファーレン委員長が,2018年までの任期を残して明年1月1日付で退任し,ジョージ・ワシントン大学の国際科学技術センター(Center for International Science and Technology Policy)のセンター長に就任することが発表された。

NRCの公式発表及びジョージ・ワシントン大学のプレスリリースによれば,就任時のミッションであった「混乱期にあったNRCの組織を立て直すこと」及び「福島第一原発事故等から充分な教訓を学ぶこと」を一定程度達成したことから,今後はアカデミアに戻り,原子力安全や核セキュリティに係る教育・研究,並びに後進の育成に注力したいとのこと。

米主要紙(NYTWP)は,退任の背景について,上院環境公共委員会の委員長を務めるBarbara Boxer上院議員(カリフォルニア選出,民主党)との軋轢や,フィルター付ベントや使用済燃料のドライキャスク貯蔵を巡って委員会内で少数派だったことなどを挙げている。

今の仕事でも,重要な国際会議の際にトレードマークのピンクのスーツで颯爽と登場されているのを拝見していたし,米国のみならず,日本の原子力界にとってもキーパーソンの1人だと思っていたので,今回の退任発表には驚いたと同時に残念に思う。

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マクファーレン女史は,元々アカデミア(NRC委員長就任直前はジョージ・メイソン大学准教授)で,ユッカマウンテン処分場の問題を含め,放射性廃棄物の地層処分等がご専門。2011年12月には,東大で開催されたシンポジウムに登壇され,終了後の懇親会でもご一緒したことがあったが,その半年後の2012年7月にNRC委員長に就任され,当時は大変驚いた。

そもそも40代後半でNRC委員長に指名されたこと自体すごいと思うが,政府の責任あるポジションを経験した人物を,50歳というまだまだ現役のタイミングでファカルティに迎えられる大学,特に在籍する学生はとても恵まれていると思う。在野の政策研究の質も上がるだろうし,裾野も広がるだろうなと思う。

日本でも学識経験者が政府の要職につくことは珍しくなく,現に自分自身が学部・大学院と薫陶を賜った指導教員は,2人とも原子力安全委員会原子力規制委員会の委員に就任している。ただ,2人とも大学の定年を間近に控えての転籍だったので,実質片道切符で,その経験を教育・研究に生かす機会は限られる(学会や個人的な繋がりなどはあるが)。

必ずしもどの国にでも当てはまる条件ではないだろうけれど,個人的には,自分のキャリア形成に関する願望も含めて,実務家とアカデミアの間のこのような距離感は羨ましいなと思う。